私事になりますが、20年くらい前、私が生命保険会社に勤務していた頃の話になります。ひと組の新婚間もない夫婦に出会いました。夫婦は、これから子どもを設け幸せな家庭を築こうと夢膨らませ、将来のライフプランを考えていました。30歳で一人目の子どもを設け、35歳で二人目の子供を・・40歳でマイホームを持ちと、楽しいお話を聞かせていただいた記憶があります。

ところが、一か月前、夫婦のお姉さんから連絡がありました。夫婦のお姉さんとは旧友であったため、久しぶりに夫婦の近況を聞くことができました。

ご主人が8年前から鬱になられているそうです。発端は職場の人間関係ということでした。体調は不良でしたが、しばらくは我慢をし勤務を続けていたそうです。ある日、我慢の限界がきて休職に入り、その後、一度復職を試みたが上手くいかなかったそうです。会社には非常勤ですが医療スタッフもおられ、上司も相談にのってくれたそうですが、誰にもこころをわって話すことができず、外部の心療内科でも同じ状況だったそうです。

現在はアルコール依存症であり、肝硬変になっておられました。黄疸も出ており腹水も溜まっているとのこと。手足に震えも出ており、病院に行こうと家族が言われても、もう死ぬつもりだと言い、絶対に病院には行かないとのことでした。子どもたちもお父さんの姿を見るのが辛いのか、家には夜遅くなって帰り、帰ると自室に入り出てこないということでした。その後、急変し救急車で病院に運ばれ入院されたそうです。医師の話では、心臓が止まる寸前だったとのこと。心が痛みました。

この話を聞いて、鬱症状が出始め体調が不良になった初期に、気づいてあげることができていたらと思いました。また復職支援は簡単なものではありませんが、本人への細やかな対応と、復帰を迎える会社側の環境調整も必要ではなかったのかと思いました。しかし、ここで批評するのは簡単なことで、実際の対応は大変難しいものです。一度罹患すると、本人だけでなく家族も会社も不幸です。

20年前にみた、幸せそうな夫婦の顔を想い出し、働く人の健康を真剣に守りたいと、改めて心に誓った日でした。

保健師 新谷