乳がんに罹患し退職を決意するまで

昨日、A社社員の健康相談に伺いました。
初めてお会いした社員さんのなかに、3月末で退職するという方にお会いしました。
2年前に乳がんと診断され、化学療法、放射線治療、ハーセプチン治療をされたそうです。
治療中は休職をされていたそうですが、終了とともに復職をされ、現在に至るようでした。
復職後は、乳房切除のため切除側のリンパ浮腫が考えられる、重い荷物が持てないという理由で、会社側が配置転換をしてくださったそうです。しかしその配置転換先が全く未経験の業種であったため、覚えることも多く、毎日帰宅後はグッタリしてしまうとのことでした。
「帰宅後に、家事や子どもの面倒をみる余力が残っておらず、夕食を外食にしてしまったり、総菜を買ってきたりと栄養バランスが悪い献立になっていました。また、子どもの面倒を満足に見てあげることができず、こたつに入り眠っている子どもの寝顔をみていると、残された時間を子どもと共に大切に過ごしたいと思いました」と退職の決意をお話ししてくださいました。

治療を終えたばかりの社員さんは疲れている

さまざまな治療はひと通り終わったけれど、ハードな治療のため体力も落ちているようでした。また化学療法の影響なのか、「新しい業務のさまざまを覚えないといけないと思うのだが頭に入らないのです」と言われました。私も大病を経験しましたが、全くその通りで、極度に体力を消耗した後は、いつもできていることができない自分にもどかしさを感じたものです。
現在は2人に1人が癌の時代といわれています。最近の医療では、患者さんに、診断名を告知されることがほとんどです。告知後は、現実をどのように受容し、前向きに治療を行っていくか、これはかなり精神的に負担なことです。
告知後は治療が次々と入ってきます。しかしどれも楽な治療はなく、多くに不安と苦痛が伴います。治療の進度とともに患者さんの体力は徐々に落ちていきます。このような日々のなかで、治療選択が迫られます。次の治療をするかしないのか、命を左右するこれらの決定は、実に重く、これも更なる精神的な負担となります。

産業保健師として思うこと

こういった戦いを通過した後は、ひと通りの治療を終え元気になって復職してきたと周囲は思うでしょう。しかし実は患者である社員さんは、心身ともに弱っていると思います。患者さんは治療中に休職をしていると、周囲に迷惑をかけてしまったと思っています。なので復職後はしっかり働かなければという気持ちでいます。
私が産業保健師として思うことは、復職してきた社員さんを、周囲はもう少しの間、温かく見守ってあげてほしいということ。
我々専門職者は、病気や治療に対する知識を磨き、患者である社員さんや総務の方々に対し、専門的で且つきめ細やかな支援を行わなければならないと感じました。

保健師 新谷